パイナップル・プリンセス

★2月24日、中野テルプシコール
黒沢美香のソロダンスシリーズ「薔薇の人」の最新作『早起きの人』。上手壁に物干し、手前に水野入ったボウル、下手に調理器具らしき台。下手天井から色とりどりのテープが数本垂れている。そこに飛び込んできてリズミカルにバレエを思わせるパとともに踊る黒沢美香は、クリーム系の提灯裾のパンツにフリルの上、弁髪のようにお下げを垂らしたエスニックな姿。衣裳は堂本教子、秀逸である。なんとも軽やかに踊り、アルコーブから大きい金属ボウルを抱えてくる。入っているさまざまな細長い紐帯のようなものを、物干しにかけていく。その物干し棹を鉤の付いた棒で一段一段高くかけていく。これが昭和レトロでおもしろい。舞台にこれを載せた人は初めてだろう。これらの美術構成は古澤たく。そして同じボウルに入れた40センチほどの竹を数十本、床に少し感覚を空けて並べる。上手の水ボウルで両手を洗うと、下手の調理テーブルをだしてきて、フライパンでホットケーキを焼く。さらにパイン缶を開けて二切れ乗せてホットケーキを上手に並べた竹の間に置いた椅子の
上に置き、床に座って食べ、やがてごろりと横たわる。
ここまでの一連の行為の間、さまざまな曲とともに踊り身振りを混ぜる。パイン缶のときは『パイナップル・プリンセス』などで笑いを誘う。しかしホットケーキを食べたあと、まったく動かないなど、奇妙に静かな場面、無音で踊る場面などが緊張感を醸し出す。
やがて起き上がるとしばく踊り、上手の椅子に立つと暗転。
明転するとカラフルなベストに着替えていて踊り出す。ゆらめく静かな踊りには無駄がない。型ではないのだが何かが決めたようにしっくりとした動き。
そして使用した事物と戯れるようにして片付けながら踊り、上手で暗転。長い闇の中、動く気配。かなりのまで光が入ると中央でほうきを右脇から出し振って左脇に入れる動きのリフレイン。すぐ暗転するが闇の中でこれがしばらく続き、終わる。
これらはタイトルどおり、朝起きて主婦が一日する仕事を描いたものだ。洗濯物を干し朝飯を料理して食べ昼寝、起きて取り込み掃除など。暗転は夕闇か。しかし物語の活写ではなく、行為自体を取り出して踊りにする。つまりポストモダンダンスの手法により、かつ物語性を与えたことで、一人タンツテアターの様相を呈している。
という分類分析よりも、そこに立つ黒沢美香が、表情を変えないのに醸すコケットリーとともに踊り、作り出す奇妙な世界を楽しめれば、それでいい

志賀信夫