フランチェスコ・T・シュリメ

ピアニスト、フランチェスコ・トリスターノ・シュリメは非凡である。バッハのみのプログラム、文化会館の小ホール、極力照明を落とした秘儀的サロンの雰囲気で弾くバッハは実にストイック。ペダルなどの虚飾なく、繰り出した和音の鳴りを丹念に探り、ピアノ自体の響きで音楽を作る。その姿勢はなんとも魅力的だ。バッハの時代のピアノはチェンバロなどの響かない楽器。だからバッハを正統に捉える試みだ。バッハ弾きにはペダル派とノンペダル派がいるが、ノンペダル派はどうしても少し地味に聞こえる部分がある。しかし淡々と弾かれる組曲などの最後は静かなダイナミズムが感じられた。
また、沈んだ音色のなかで、これは、という一音が鳴ればすべてがそこに収煉する。それが鳴るのは実に希有なこと。しかしその気配を感じさせた。
アンコール最初のギボンズパヴァーヌはさらにストイックで美しい。次は彼のオリジナルで、メロディーという曲らしいが、ジャズ的な裏打のリズムで、そこに時折右手でシンプルなメロディーがからむ曲で、ピアノ好きがインプロで作りがちなもの。むしろバッハのモードを生かした現代曲をが聴きたい。
現代のベリオやテクノなどを弾く感性も持つ、リュクセンブルクの若い勝れたピアニストのストイックな試みに拍手をおくりたい
★写真は昭和11年、2.26事件のあった2月に作られた橋。明後日は2.26から74年だ
志賀信夫