若冲から

★11月3日
皇室の名宝展の前半の目玉が伊藤若冲の動植採絵。こんなに大衆化するとは誰も思わなかった。しかし日本画に関心を抱いたときに、入りやすい対象といえる。幕府お抱えとなった狩野派世襲的に芸術性を失い、官製美術のつまらなさを曝け出したゆえに、マニエリストの偏執が、一矢報いるのみならず、いまや官をしのぐのは、爽快ですらある。
しかしそれも、ラーメンブームレベルの偽B級指向や感覚によって、一種のオタク系スノッブが新たな現実逃避の道を見つけたに過ぎず、巷の主婦やカップルがしたり顔で語りながら、いつしかいつもの世間話か、くどきへの道筋を辿るのを、苦々しく思っても、同じ穴のムジナである我が身を思い知るのみ
しかし以前に三の丸尚蔵館や正国寺で観たときより明るいのは、裏打ちを変えたのみならず、洗ったのか。あるいは照明、見せ方のせいだろうか。
若冲にひかれるのは、美しさのみならず、わからなさだ。鶏などへの偏執、奇妙な木の枝と不明な空間、背景の暗さ、不自然な構図など、それぞれの絵に一つは見つかる
★写真は以前にペットボトルとなった若冲
志賀信夫