浅井微芳、若冲、笠井叡VS高橋悠治

三の丸尚蔵館への途中。パレスホテルのギャラリーに人だかり。書家の浅井微芳によるパフォーマンスだった。テクノっぽい音楽をかけながら、大きい紙の周囲に何十組もの筆と硯を置いて書き続ける。墨も茶墨、緑墨、金粉を混ぜたものまでさまざま。穂の長い筆で優美に書く。
面白いのは文字だから意味があること。抽象にも見えながら、文字を聞けば辛うじて読み取れる。かつ表意文字ゆえの形。だからカリグラフィよりも自由だ。意味も否定すればもっと面白い
三の丸尚蔵館の花鳥展の目玉は若冲の動植採絵。30幅が6幅ずつ5回に分けての展示。全面修復なってのお披露目の3回目。裏彩色、黒裏地などがその過程で発見されたのも、専門家でなくても面白い。
そしてセッションハウスへ。笠井叡高橋悠治による『透明迷宮』。1月の国分寺いずみホールからの再演だが、前より小さい空間、三方から観客が囲み、よりリアルに笠井のダンスと高橋のピアノを感じた。ペダルを使わないバッハのフーガは、虚飾のない抽象として、音そのものの連なりが降ってくる。あたかもアポリネールの『雨』、「雨が降る」の文字が降るように描かれた詩のように、音符と音の連なりが会場に静かに降り注ぎ、それを浴びながら笠井が踊っているようだ。笠井の息遣いと声が観客に届き、高橋はそれと足音、気配を感じながら弾き、笠井も音を聴くより体で感じながら踊っているようだ。笠井の踊りは時に体を開き、時に壊すように酷使しながらも、一つひとつが美しい。見慣れぬ動きもあるが、それはいま舞踏学校などで作っている「降り」とのこと。高橋が、語るというか、発話するような音の連なりを放ち、笠井が冗舌に踊る。それらがフーガとして追い、追われ、絡み合う刺激的な世界が、しかしあくまで静謐に広がった。あと3回続いて同じ形で
続くが、それぞれが違う「色を纏う」はずだ。
志賀信夫