「表現の新たな可能性への一歩」JTAN FESTIVAL 2010

               加納 星成(ダンス・映像研究)

 JTANフェスティバルは、<素舞台において、身体のみで舞台に立つこと>を基本とするジャンルにとらわれない様々な舞台表現22団体・個人が結集した大変見ごたえのあるものだった。演劇はもとより、一人芝居・朗読・ダンス・舞踏・映像表現のアーチストが限られた舞台設定の中で「舞台芸術の本質」を希求する有様はまさに表現の新たな可能性を示すものであった。
 小劇場を中心に活動する団体も数多く参加している。彼らは北海道から関西などからここに集結し、既成の劇場表現の基本に疑問符を投げかけ、開かれた表現を模索した。従来の劇的な話法・行為を再検証し、舞台と観客の間に横たわる数多くの問題に立ち向かった。あるものはオリジナルな台本により、あるものは一人に身体に託し、あるものはストリートダンスという身体表現で、あるものは孤立した精神の呟きを映像とのコラボで示唆し、あるものは舞台という仕組み自体を再構成し、あるものは即興という形で劇解体を促し、多義的に、この問いに答えようとした。また、ダンスや舞踏といったノンバーバルな表現者たちは、こうした言葉で成立する劇的なものに対し、まさに身体が奏でる音楽を志向し、実際に生演奏という手法を用い、この「舞台芸術の本質」に迫っていった。
 この一歩は、この世界ではほんの小さな一歩であるかしれない。だが、この真摯な一歩は今後の舞台表現には大変貴重な提言であるといえよう。このフェスは最終日にこれまで行われてきた何回かのシンポジウムを総括するとともに、また観客と共に開かれた討議を経て、これからの一歩を期待させる宣言と共に締めくくられたこと記しておこう。