日比和平展銀座教文館ギャラリー

日比和平と出会ったのは十年少しほど前、静岡豊橋だった。地方に用事があるときに、ロシア正教会を訪ねることがある。その地のイコンを見せてもらうためだ。この時も山下りんのイコンを見に豊橋正教会にいき、日比さんを紹介された。
車で二十分ほどの市営住宅に日比さんは奥さんの一枝さんと住んでいた。玄関には見事なラファエルロの模写。茶の間でサモワールで入れた紅茶をご馳走になり、三畳の画室に案内された。ロシア語や各国語のイコンの資料、下絵や作品が山と詰まり、イコン三昧の部屋。この一戸は乳香が薫かれ、ロシアだった
四谷にあった正教会で生まれ、修道士として生活しニコライ堂でイコンを学ぶ。しかし戦争協力などに反発して、地方の教会を彷徨い、豊橋に落ち着く。一時は世俗の仕事に就くが、再びイコンを描き絵を教えて生涯暮らす。そんな日比さんは実に親しみやすい。話が魅力的でやんちゃなところも垣間見せる。一度会うと、たちまちファンになる人がなんと多かったことか。日本にイコンを輸入したギャラリストがサポートして、毎年、横浜で展覧会を開いた。そのたびに会いにいった。彼の話をまとめて本にしようと思った矢先、亡くなった。まだまだわからないことがたくさんあり、すぐには本にできない。
でも日比さんは僕の中で大事な存在だ
志賀信夫