踊るなと体は言う。黒沢、東野

・黒沢美香ダンサーズの舞台が始まった。初日は美香のソロ
下手奥隅に音響のサエグサユキオが座る舞台に、上手から現われる。黒い七分のパンツに白い透ける上衣、ひっつめて一本に編んだ髪を垂らし、場を確かめるように歩き、静かに動き始める。踊りらしい動きにいく狭間で、探りつつ踊りが見えてくる。止まって口をポカンと開けた表情はなんと印象的か。ピアノ曲が次々かかるが、そこに静かに交ざるノイズは、時に呼吸器のリズムのように響く。
パン、万遍無く当たり影を作らない照明は、稀に静かに変化する。体にひととき陰影が浮かぶか、あくまで体を晒そうとする。
踊れる体ゆえに踊らないダンスも作り続けた黒沢は、いま、踊るなという体と、踊りたい心、踊れという体のせめぎあいのなかで、舞台に立っている。それは踊れない体の踊りであり、踊れる体の踊りでもある。
真摯な体に僕らはどこまで真摯に向き合えるのか、わからないが、何度か戦慄を感じたのは、体が始原的な音楽を奏でていたように思うからだ。
・翌日、目黒大路構成による東野祥子と目黒のデュオ。椅子にすわったままの東野のソロがまず圧巻。体か伝わる。さらに目黒との激しい絡みは、体が壊れそうだ。最後は静かにつながったが、東野も、踊るなという体とともに、踊り続ける。しかし心と体は言うのだ。踊れと。
・黒沢と東野は天性のダンサー。踊るために生まれてきた。しかしいま、体がそれを許さない。奇しくも二日続けてその場に立ち会いつつ、激しい踊りを感じ、立ち尽くしていた。
黒沢はまたダンサーズとして、またメンバーと、東野は目黒と対峙しつつ、踊り続ける。
踊れない体で踊ることのもう一つの意味を再び感じた二日間だった
・東野VS目黒は日曜マチネと夜、麻布ディプラッツ、美香ダンサーズは約一週間さまざまなプログラムが駒場アゴラ劇場で。
見逃せない
・写真は以前に二パフで南米のパフォーマーが使った人形のカラダ

志賀信夫