藤井マリ@テルプシコール

★2月20日
藤井マリは特異な舞踏家である。その踊りはまずテクニックではない。パーカーのフードをかぶりジャージで佇む姿はシーガルの作品のような風景に存在する人間の像にも似る。少し前に体を傾けて少し俯き加減の藤井は動きだす前の彫像のようだ。そして動きだすと目が離せない。例えば舞台をぐるぐる回る。多くのダンサーがやることだが、そこにつなぎや躊躇い、さまよいではなく、体の意志がある。内心は色々考えることもあろうが、舞台に立つと何か確実に舞台の存在になるのだ。踊りはその存在そのものとして踊る身体を感じる。ある種の内省的な暗さを感じさせる踊りには見えない力がある。今回逆光的に黒く浮かび上がった踊りでは、床を微妙に滑る足の動きが秀逸だった。黒シュミーズの踊り、白い衣裳の踊りいずれも動きがいい。ただいつもは極めて抽象的で素晴らしい戸田象太郎の音がメロディックだったことで、踊りに物語が付いてしまった。「ねむれない」などの声はイメージを限定してしまう。ラストのリズミックな音も藤井は外して踊るのに苦労していた。しかし最後、壁にもたれて半ば倒れんとする姿は美しく、心に残った

志賀信夫